「あっちへいってよ!」
彼女の優しさは憐れみになった。いじめられていたあの子に声を掛けたら、そう言われたのである。
帰りしなに、道路脇に猫がいたから、給食で残したパンをあげた。急いで食べる猫に気を良くしていたら、後ろから来たクラスメートが、
「おい、そんなやつに餌なんか与えてどうするんだよ、たくましく生きさせろ」
私にとって可愛い猫は、彼にとっては下等だった。
家にはそのまま帰らず、河川敷に座り、彼女は水平線に沈む太陽を眺めた。美しかった。
『この夕日だって、彼らにはどう映るのかしら、……』
涙をこらえて彼女は、夕日に向かって石を投げた。
いままでひとつだった、夕日が映るその水面に、ガラスが割れたように波紋が広がった。